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大丈夫なわけねえだろ!マイケミ、再結成

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  • 2019年11月17日
  • 読了時間: 12分

ロックを馬鹿にするのは構わないが、マイケミを聴いてからにしてくれ。


個人的には2000年代で最も偉大なロックバンドの1つであるマイケミこと、My Chemical Romanceが復活するらしい。

ということで、今日は、世界で最も"鳥肌が立つ "ロックバンド、マイケミの何がすごかったのか、改めて紐解いていきたい。


最近、チルだ、ローファイだ、アンニュイだみたいな音楽しか聴いてない人たちは、胸に手を当ててよく自分に問うて欲しい。

その曲聴いたとき、鳥肌立ちましたか?

そうやって、老けていくんですよ。まじで。





そこそこ売れたバンドだから、なんとなく知ってるみたいな人が多いかもしれない。

が、そんなあなたが思っているマイケミは一部に過ぎない。

まずは、挨拶がわりにこのPVを見て頂きたい。


Desolation Row - My Chemical Romance


これでビビッと来なかった人もいると思うが、落ち着いてほしい。

聴いて分かる通り、めちゃくちゃだ。

そう、マイケミの音楽はアウトローでアナーキー、そしてハードコアなロックだ。

でもそこに歌詞やテーマが入って来た時、一気にドラマチックでコンセプチュアルな音楽へ昇華する。

ちなみに、この曲はBob Dylanのカバーで、元曲は11分あるが、マイケミは2分にしてる。まじで頭おかしい。


元曲

Desolation Row - Bob Dylan



マイケミの誕生

マイケミは、アメリカのニュージャージー州出身の5人組ロックバンドだ。

東海岸の都会で育ったメンバーたちは、基本的に全員が高校の同級生。

お互い就職などをするが、少し大人になってから再会。映画『Trainspotting』の原作者であるアーヴィン・ウェルシュのカルト小説に因んで、My Chemical Romanceというバンド名で2001年から活動を始める。


2002年、マイケミは初のアルバム『I Brought You My Bullets, You Brought Me Your Love』をリリース。

このマイケミインディーズ時代は、あえて今日はあまり触れない。

というのもこれを読んでる良識な皆さまのお耳にぶち込むには、あまりにハードコアだからだ。

聴きたい人はYou Tubeで「Honey, This Mirror Isn't Big Enough for the Two of Us」とかググってみると良い。

デビューアルバムの2曲目だが、多分、「は?」ってなると思う。



さて、話をマイケミに戻すと、インディーズながらこのアルバムが頭おかしいファンにそこそこ売れたことで、マイケミはアメリカやイギリスでツアーを重ねるようになる。

さらに"ロック界のブラピ"と言われる、カリスマ性抜群のボーカル ジェラルドのトチ狂ったパフォーマンスが人気を博し、メジャーレーベルのリプリーズ・レコードと契約をすることに。すなわち、メジャーデビューが決定した。

いや、イケメンすぎるだろ。



その頃、ロック界では何が起きていたか。

21世紀に入る前にカート・コバーンが死に、それは同時にグランジの死も意味していたロックは、21世紀に入ると、オルタナティブ・ロックという形で、ジャンルの飽和が始まっていた。


イギリスでは、ポップとロックの境界線を鮮やかに飛び越えるコールドプレイや、

実験音楽とロックを組み合わせたレディオヘッドがバカ売れ。

あとは、マイケミと同じくらいの時期にフランツ・フェルディナンドが、ダンス・ミュージックとロックを融合させてみせた。

アメリカでは、ラップとコアを組み合わせたリンキン・パークのチケットが飛ぶほどに売れ、俺の初恋アヴリル・ラヴィーンがパンク・ロックを可愛くしてデビューしていた。

他にもみんな大好きポップとパンクを足したWANIMAみたいなバンド シンプル・プランやイエローカードも売れ始めていた。


ただ、オルタナと言っているくせに、ある面白い現象が起きていた。

この時代のロック(だけでなくポップも全部そうだが)、メッセージが2つに1つで分かれるのだ。


1つは、「俺、だめだ、死のう・・・」みたいな暗い系。

レディへの「Creep」なんかまさにそうだが、グランジの時代を引きずっている歌詞だ。

まあ、どっちかというとマイナー。


2つ目は、「頑張れ!明日があるぞ!」的なメッセージ。

Christina Aguileraの「Fighter」とか、Daniel Powterの「Bad Day〜ツイてない日の応援歌〜」(笑)とかが売れたのが良い例だ。

日本だと、ONE OK ROCKとかエレカシとかWANIMAとかを思い浮かべてくれると良いだろう。


そう、この時はまさにワンオクみたいなロックバンドが増殖し、新たな時代を形成しようとしていた瞬間だったのだ。

「頑張れば、夢は叶う!」みたいな歌詞をラウドなロックに乗せるというスタイルのバンドを、各レコード会社が片っ端からデビューさせていった。

「僕はいつも君の横にいるよ!」みたいな歌詞が乱立し始めた。

「涙を拭いて、もう一歩頑張ろう!」

「自分を信じて!」

「君ならできる!」

「前を向いて行こう!」


そして、みんなこんな歌詞で締めていた。

「絶対、大丈夫だから!」


そんなロックが流行っている時代に、マイケミがメジャーデビュー果たすことになる。

そして、彼らデビューシングルでこう叫ぶ。


「いや、大丈夫なわけねえだろ!」


I'm Not Okay (I Promise) - My Chemical Romance


映画の予告編をモチーフに作られたこのPVが、MTVやYou Tubeでメガヒットを飛ばし、

誰よりも腹の底で「大丈夫なわけねえだろ!」と思っていた若者たちの心をがっしり掴むことになる。


いや、普通に考えたら大丈夫なはずがない。

このシングルが発売される2年前にはアメリカで9.11のテロが発生、その次の年にはエボラの恐怖がアメリカを包んだ。大丈夫なわけないのだ。


この後、マイケミはメジャーデビューアルバムとして、『Three Cheers for Sweet Revenge』(通称、『スウィート・リベンジ』)をリリース。

変則的でメロディアス、キャッチーでドラマティックなアルバムは、多くのロックファンに受け入れられた。


同時にこの頃から、クイーンやピンク・フロイドの影響を多分に受けているマイケミは、アルバム全体を通して1つの物語になっているコンセプト・アルバムにこだわり始める。

この『スウィート・リベンジ』は、突然死んでしまったカップルの男性に焦点を当てた話で、その男性が地獄に行くと、実は彼女は死んでいないということを悪魔から告げられる。彼女ともう一度同じ時間を過ごすには、現実世界に戻ってきて、汚い心を持った1000人分の男の魂を持ってこなければならないというストーリー。

その中で主人公の男性が、死ぬ前に自分をいじめていた奴らを訪ねるというものだ。


まあ、オチは書かないが、主人公はだんだん良心の呵責に陥り悪人でも殺せなくなる一方、彼女と会いたいと思う気持ちは強くなる。そこで、アルバム名にある通り、ある「スウィート」な方法で悪魔を出しこむのだが、そのストーリーには脱帽である。


Helena - My Chemical Romance



マイケミの時代〜終わりまで

『スウィート・リベンジ』の成功で、国内外のツアーで大忙しとなった彼らは、"新生ロックスター"として、祭り上げられることになった。

ただ、ジェラルド含むメンバーは「なんか違くね?」と感じていた。

まさにカート・コバーンが死んだ理由と同じなのだが、もともとマイケミは売れる気なんか全くなく、アウトローでアナーキーかつハードコアなことをしていただけなのだ。(ちょっとだけ聴きやすくなったかもだが)


そんな思いが煮詰まったジェラルドは、ロックスターの大先輩であるグリーン・デイのボーカルであるビリー・ジョーに相談。

「なんかちげえんだけど」

すると、ビリーはこう回答。

「世の中には、正しいロックスターが必要なんだ」

そう言うと、ビリーはずっと一緒に製作をしてきたプロデューサーであるロブ・カヴァロを紹介すると約束する。

グリーン・デイやGoo Goo Dollsをプロデュースしてきたロブは、当時のロック界を牽引する敏腕プロデューサーだった。

特に彼はインディーズからメジャーへバンドが転換する際に、そのバンドの良さを残したまま、絶妙な加減で味付けするのが上手だった。


2005年、全世界のロックファンが待ち望んだ、マイケミの2枚目のメジャーアルバムの製作日。

ここでまたジェラルドがやらかす。

どんなデモテープがやってくるかワクワクしていたロブの前に、激やせしたジェラルドが現れる。

そして、紙の束をロブの前に置くと、「これがニューアルバム」だと言った。

それは1冊の本になっており、しかも読んでみると開始10秒で主人公が死ぬ。

後日ロブはその時のことをインタビューで語っている。

「僕ができることは何もなかった。だって、全部完璧に出来てるんだもん」


バンドはそれから1年間に及ぶスタジオミキシングとレコーディングを繰り返し、2006年、マイケミがロックの天下を獲ることになる名作『Black Parade』が誕生する。


Famous Last Words - My Chemical Romance


『スウィート・リベンジ』のときと打って変わって、髪を短くし金髪に染め上げたジェラルド、そしてマーチングバンドを模したコスチューム。

まじで神々しい。

このFamous Last Wordsを初めて聴いた時、冒頭のギターリフに鳥肌が止まらなかった。


一人の男性が死ぬ間際に色んなことを走馬灯のように考えるという重いストーリーだが、『スウィート・リベンジ』に比べてストーリーが分かりやすいのが特徴だ。


そして何より言っておきたいのは、このアルバムを通して、マイケミは2000年代における1つのロックサウンドを示しているのだ。

それは、オルタナではない、純粋なロックだ。


上述した通り、この頃のロックはジャンルレスになり、飽和状態にあった。

ロックにはある種保守的なスタイルがあり、カリスマなボーカルにかっこいいギターリフ・ギターソロがあるのだ。

ロバート・プラントの裏にジミー・ペイジがいたように、オジー・オズボーンの裏にトニー・アイオミがいたように。

だけど、マイケミから少しだけ後にロック界を牽引することになるFall Out Boyが、ヒットシングル「I Don't Care」で揶揄しているように、この頃のロックにはギターリフもなければ、カリスマ性のあるボーカルもいなければ、かっこいいギターソロもなかった。

レッチリみたいな変わり種か、リンキンみたいな優等生しかいなかった。


しかし、マイケミは『Black Parade』というアルバムを通して、ストレートでラウド、ある種オールドなハードロックを鳴らす。

くそかっこいいリフにタイトなドラム、走り抜けるベースに誰も真似できないボーカル、そして毎回しっかり入るキャッチーなギターソロ。

それはバディ・ホリーが作り上げたバンド形態をルーツとし、ロックに音楽理論をぶち込んだビートルズにリスペクトを払い、華やかで派手でドラマティックな要素を追加したクイーンにルーツにもつ、正統派のロックだ。

これこそが21世紀版の純度100%ロックなのだ。


アルバムの冒頭から、そんなロックでぶちかましてくる。

Dead! - My Chemical Romance

このギターソロはかっこよすぎて、耳から血が出るほど聴いた。


もちろん、ロックなバラードだってある。

I Don't Love You- My Chemical Romance


このアルバムは全曲ハズレがない。


マイケミの『Black Parade』は世界10数カ国でチャート入りし、イギリスではシングルカットされた曲は即日で首位に上り詰めるほどのヒットを飛ばす。

マーチングバンドの衣装を身にまとったマイケミは、長い長いワールドツアーへ出かけ、2000年代のロックバンドとしての地位を確率することになる。



その後、『Black Parade』の大成功で疲れたメンバーは一時休息に入る。

この時すでにコアなファンを獲得していただけに、(俺を含めて)解散するんじゃねえかと不安になっていた。

その間にベースのマイキーは結婚したり、ジェラルドもくそ頭おかしいベーシストのお姉ちゃんと結婚していた。


マイケミは非常に硬派なロックバンドなので、あまりインタビューなどにも出ないし、ブログとかもやっているわけではないので、どこにも情報がないまま、『Black Parade』から4年、メジャー3作目はあまりにも突然訪れた。


Na Na Na (Na Na Na Na Na Na Na Na Na Na) - My Chemical Romance


いや、誰。


サウンドも前回と全く違い古臭いガレージなロック、歌詞も全くストーリーのない、ただロックな歌詞。てか、ジェラルド髪赤くね?


ちなみにこの「Na Na Na」は今を代表するアーティスト ビリー・アイリッシュのお気に入り曲らしい。


こうしてマイケミは期待に胸を膨らませていた全ファンに中指を立てるアルバム『Danger Days』をリリースする。


本当にこの時はどんなアルバムになるのだろうと思っていたが、そこはマイケミ。ちゃんとコンセプトのある作品に仕上げてきた。


Sing - My Chemical Romance


この作品では、マイケミのメンバーが、なんともダサかっこいいスーパーヒーローとして、あなたを救いに行くという内容だ。PVも一連のドラマシリーズ化されている。


ただ、もちろん「大丈夫、僕が行くからね」なんて歌詞はどこにもない。

「君を助けに行くよ!」と高らかに叫んでから上のPVの通り、フルボッコにされるヒーローたちを描く。そして最後には「自分の身は自分で守れ」的なことを言ってくる。なかなかだ。

ちなみに、このアルバムでは「逃げろ!逃げまくれ!」というワードが随所に出てくる。

「逃げる」という選択肢をここまで高らかに歌ってくると潔い。


『Danger Days』は(本人たちの予想を大きく外れて)世界中でヒットを飛ばす。

ただ、面白いのが、ここである種ファン層が変わるのだ。

『Black Parade』だけを聴いてファンになったゴス軍団や、にわかファンが一気に手を引いたのだ。そして、年齢層が高いファンがライブの大半を占めるようになった。もうこれが何故かは言わなくても分かるだろう。





マイケミというヒーロー

これまで割と事実ベースで書いてきたが、ここから最後に少しだけ、主観を交えてマイケミがすごいと思う点を語りたい。



Welcome To The Black Parade - My Chemical Romance


ロックの起源は正確には分からないが、仮にアラン・フリードがラジオで「ロックン・ロール」と言って、チャック・ベリーが「Johnny B Goode」を引いたタイミングを誕生とするなら、まだ60年くらいしか歴史がない音楽だ。クラシックとかに比べれば、まだまだ若い音楽だ。


個人的な見解だが、ロックが短期間でそこまで成長してきた理由の1つに、ロックには民衆のヒーローが出てきたという点があげられると思う。

特に若者の声を代表するような ミュージシャンが、大量の人の前でデカい声で叫ぶ時に、魂が震えるのだ。


エルヴィスが腰を振って、ジョン・レノンが愛を歌った60年代。

ジョニー・ロットンが王妃に中指を立てて、ロバート・プラントがラリってた70年代。

アクセル・ローズが凶暴なロックを再建して、フレディ・マーキュリーが自由と勇気を歌った80年代。

カート・コバーンが絶望を歌って、ボノが平和を歌っていた90年代。


挙げればキリがないほど出てくるのに、2000年代には急にスターがいなくなる。

ステージで白目を向いたり、急に絶叫したり、胸毛を露出する服を着たり、ギターぶっ壊したり、ドラムに火を付けたり、そういう人間離れしたことを表現するスターがいない。


しかし、今でも部屋を少し暗くして、ヘッドホンの音量を最大にして、「Welcome To The Black Parade」を聴くと、初めてこの曲を聴いた時を思い出す。2000年代のロックヒーローがやって来たのだ。


この曲を真剣に聴くと今でも鳥肌が立つ。そして、自分が抱えている問題に頭からぶつかっていこうという意思が芽生える。

僕らの時代でも、ロックはまだ死んでいなかった。そう思わせてくれる。マイケミってマジでそんなバンド。

久々の長文駄文だが、これを知らないで歳を取るのは、マジで勿体無い。

是非、何か機会があれば、騙されたと思って聴いて欲しい。



あと、そんなマイケミが復活するらしい。

しかも来年の3月に来日も決定した。

しかもチケット当たった。

大丈夫なわけねえだろ。



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