美容室とチャラ男とアリアナ・グランデ
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- 2019年3月24日
- 読了時間: 4分

髪を切った。
こんな感じになったのだが、髪以外にも切って欲しかったものがある。
あいつの話の長さだ。
と言う訳で今日は、わずか1時間半で、
美容室という日常から、アリアナ・グランデという非日常へ着地した話をさせて欲しい。
今の場所に住んで、1年と3ヶ月ほど経った。
引っ越す前は5年近く同じ美容院に通っていたため、予約はLINEでするし、
いつも髪を切る時のオーダーは、「いつもの」か「いつものじゃないの」の二択に絞られていた。
ところが、こっちに来て美容室の数に驚いた。
これはどこに行けばいいかわからない。
僕はホットペッパービューティーの初回限定クーポンを使い倒し、
1年という時間をかけ、ありとあらゆる美容室で髪を切った。
あり得ないくらい美人なお姉さんが、あり得ないくらい前髪を切って来るところや、
店内綺麗なのに、ハサミにゴミ付いているところや、
ほぼ切ってくれないところなど、
長い間僕は彷徨った。
そんな紆余曲折を経て、
ようやく僕はある美容院に落ち着いた。
そこは家から歩いてすぐにあり、ビルの地下にこぢんまりと構えており、
スタッフは「店長」と「トップスタイリスト」の男性2名しかいない。
決め手となったのは(当然だが)自分好みの髪に切ってくれることだ。
言葉で表すのが難しいが、ギリギリそこで止めて欲しいというラインを、
言わなくてもやってくれるのだ。
僕がそこに初めて行った時、
担当してくれたのが、「トップスタイリスト」の方だ。
顔はテラスハウスでいうと、王子に似ている。

スラッとしていて顔もイケメンなのだが、何と言ってもチャラい。
口から出て来るのは相席屋と相席ラウンジの違いや、
合コンで使えるネタ、この前いたブスの話など女絡みの話ばかりだ。
最初は嫌気が指していたが、髪の仕上がりを見て驚いた。
完璧だった。
オーダーしていないのに、細部まで僕好みにしてくれた。
そのギャップに、僕はやられてしまった。
チャラいだけではない、腕も確かな感じに僕のハートは持って行かれた。
2回目、迷わず僕はそこを予約した。
ここで気づいたのだが、このお店はスタイリストさんが指名できない。
僕は画面の奥で微笑むお兄さんを押して見た。
でも、何も起きない。
そして何を血迷ったのか、僕は「ヘッドスパ」のボタンを押してしまった。
カットだけでなく、ヘッドスパも付けてしまった。
僕みたいな人間には一番いらないサービスであろう。
ドキドキのまま、僕は美容院へ入った。
「こんにちは〜」

チャラ男だ。
僕はとても嬉しい気持ちになった。
またチャラ男のチャラい話を聞きながら髪を切られ、
気づいたらいい感じに仕上がっていた。
ヘッドスパの時は気持ち良すぎて、おそらく白目を向いていた。
そんなこんなで、髪を切った。
3回目だった。
僕は迷わずヘッドスパを付けた。
今日もチャラ男がしっかり出勤していることをホットペッパービューティーで確認すると、
僕は店内へ足を踏み入れた。
「いらっしゃいませ〜」

「店長」だ。
今日僕を担当するのは、「トップスタイリスト」ではなく、「店長」だ。
そこに王子の姿はなかった。
僕は店内を見渡した。
しかしここは小さい美容室、僕と「店長」以外に、人影はなかった。
僕は、次々と悲しみに襲われた。
「今日はどんな感じにしますか?」
チャラ男は、そんなこと言わない。
チャラ男は、「前髪上げちゃいます?」とか要らない提案をしてくる。そういう要らない提案が和むのだ。
「僕〜、この前3年付き合っていた彼女と別れちゃって」
チャラ男は、そんなこと言わない。
チャラ男はまずこの前の合コンから話を始める。そのあとだいたい合コンは失敗するので、そのあと渋谷の相席ラウンジに行くのだ。
「店長」のピュアさなど、僕にとってはヘッドスパ以上に要らない。
「でも、3年間一回も浮気しなかったんすよ、僕」
チャラ男は、そんなこと言わない。
チャラ男には浮気という概念がない。彼の生きている世界にはそんなものは存在していないのだ。彼に浮気という文字を示しても、Tinderと脳内で自動変換されてしまうに違いない。
「かゆいところないですか?」
チャラ男は、そんなこと言わない。
チャラ男は、かゆいところなど言わずとも分かってくれる。「ここだろ?」と言わんばかりの手使い。
それに比べて「店長」の手使いは荒かった。カットの時も痛かった。そういうのが上級者なのかもしれないが、僕は初心者なのでもっと優しくして欲しかった。
そしてある程度終わったあと、「店長」がいきなり地雷を踏んでくる。
「アリアナ・グランデって知ってます?」
チャラ男は、そんなこと言わない。
チャラ男にとって音楽とはカラオケであり、カラオケとは女を落とす場所であるから、
彼にとって大事なのはアリアナではなく、最新のJ-POP Top 10だ。
「店長」は僕の逆鱗に触れてしまった。
僕は、勢いよく椅子から立ち上がり、「店長」が持っていたバリカンを奪うと、彼の頭にある髪の毛すべてを反ってしまうような形相で座っていた。
僕はその形相のままお会計を済ませると、お店をでた。
仕上がりはチャラ男とあまり変わらなかった。
また行きます。
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